【セミナーレポート】企業の人的資本戦略としての障がい者雇用
〜障害者雇用で企業が元気になる〜 影山摩子弥先生 2024年3月19日

今回は「人的資源」と「人的資本」という二つの概念を経営学・経済学の視点から整理しています。経営学では人的資源は価値を生む材料とされ、労働者をコストとして扱い、効率化のために低賃金や過重労働を求める場合があります。一方、経済学では人的資本は教育や技能が将来の利益を生む投資対象と考えられ、シュルツは教育を人的資本への投資と位置づけ、ベッカーは技能を「一般的技能」と「企業特殊的技能」に分けて人的資本の重要性を明示しました。企業の成長には労働生産性向上が不可欠であり、社員という人的資本が大きな役割を担います。特に多様な人材が心理的安全性を保ちながら協力し合うことが、創造性やリスクマネジメントを促進します。心理的安全性とは、自分の意見や不安を安心して表現できる状態であり、障がい者が「嫌だ」と言える環境を整えることは、対話を活性化しイノベーションを生み出す土壌を作ります。
日本では少子化や核家族化、長時間労働、低賃金、女性の就労機会の不足などが原因で生産年齢人口が減少し、人手不足が深刻化しています。男性の長期的な就労や女性の労働人口も伸び悩んでおり、企業は新たな労働力の確保が課題です。この中で注目されているのが障がい者雇用です。障がい者を戦力化するには仕事内容の簡素化や作業の複雑性を下げる工夫が重要です。実際、重度障がい者を雇用する企業では、その日の体調や特性に合わせた柔軟な業務割り振りを実践し、経営を持続させています。また、緊急性は低いが重要な業務を短時間就労で障がい者に任せることで、労働力不足解消に貢献しています。
さらに、障がい者雇用の形態としてサテライト型雇用があります。これは特例子会社やA型、B型事業所、農園など企業とは別の場所で障がい者が働く形態です。専門の支援員が常駐し、障がい者に合った作業を用意できるメリットがある一方、企業の目が届きにくく、障がい者がどのような環境で働いているかを把握しづらいため、企業内の多様性を育む効果が弱まるリスクがあります。サテライト型でもイノベーションを生むためには、事業所と企業間で密に連携し、柔軟に対応していく姿勢が求められます。
障がい者雇用によるシナジー効果としては、作業手順の見直しや手話での説明を通じて安全意識が高まり、健常者も含めた社員全体のリスクマネジメントが強化されます。障がい者の成長を支援する過程でチームワークや信頼関係も向上し、職場全体のパフォーマンスが向上します。また、障がい者が努力して仕事に取り組む姿勢は、健常者社員に刺激を与え、モチベーションや集中力を高める効果もあります。このような取り組みにより心理的安全性が高まると、社員同士が互いに配慮や支援を意識し、建設的なコミュニケーションが促進されます。心理的安全性はイノベーションや生産性向上の鍵であり、障がい者雇用を通じて企業文化に根付かせることが可能です。
また、障がい者の戦力化と定着には地域との連携が重要です。企業単独では解決が難しい障がい者対応の課題に対して、医療機関、就労支援機関、自治体、企業団体など地域全体で支える仕組みが求められます。地域連携により障がい者が安定して働ける環境を作れるほか、企業も必要なノウハウを共有でき、障がい者の定着率が向上します。結果として、多様な人材が活躍できる組織風土が醸成され、心理的安全性がさらに強化されます。これにより、企業はより柔軟で創造的な組織へと成長し、生産性向上だけでなく、従業員の満足度や定着率向上にも繋がります。最終的にはこうした企業の取り組みが積み重なることで、日本社会全体の生産性が上がり、経済成長に寄与していくことが期待されます。
参加スタッフの感想
横浜から影山先生に来てもらってお話しいただきました。経営や経済というとっつきにくい内容をとても分かりやすく説明いただき、その中で障がい者雇用をどのようにとらえていくかのヒントがたくさんありました。障がい者を雇用することで会社が活気や元気がでるという表現は我々支援をしている者にとっても、とても勇気をもらえる内容でした。