【不安・対人恐怖】不安シリーズその2「社会不安障害について」

著者 臨床心理士/公認心理師・平野秀幸
不安シリーズその1「不安についての基礎知識」にてご紹介した不安について、今回のコラムでは不安によって引き起こされる疾患について、ご紹介したいと思います。不安という感情は社会生活の様々な場面で生じるものですが、その中には人前に出ることに対して感じる不安があります。一般的にスポーツの場面などで人前に出る際に生じる緊張やドキドキ感も不安として認識されることがありますが、それらは人間にとって当然の反応であると考えられています。しかし時には日常生活や社会生活を送ることに支障をきたすほどに強い不安や恐怖を感じる場合もあります。今回のコラムではこのような人前に出ることへの不安や恐怖についてご紹介します。
目次
・人前に出た際に生じる強い不安や恐怖、社会不安障害について
・社会不安障害が社会生活、特に就労場面に及ぼす影響について
・普段の生活の中で可能な社会不安障害への対処法
・最後に・・・ワンモアで可能な支援について
●人前に出た際に生じる強い不安や恐怖、社会不安障害について
社会生活を送るにあたって、人前で何かをするという機会に出会うことは少なくありません。朝礼での簡単なスピーチや会議での発言といった人前で話す機会や、接客業などお客様の前で商品の袋詰めといった作業を行う機会が一例として挙げられます。また電話やオンラインでのビデオ通話といったコミュニケーションも、人の前に出るという意味合いを含んでいると考えられるのではないでしょうか。このような機会に出会った際に、強い不安や恐怖で頭がいっぱいになる、手の震えや動悸、顔の赤面や発汗、息苦しさといった身体反応がみられる、といった社会生活を送ることに大きな支障をきたす場合、社会不安障害という不安障害の可能性が考えられます。社会不安障害は「内気」や「引っ込み思案」といった性格の問題ではなく、医療機関での診断によって確定し、治療が行われる精神疾患の1つとされています。

●社会不安障害が社会生活、特に就労場面に及ぼす影響について
では、具体的に社会不安障害は社会生活、特に就労場面においてどのような影響を及ぼすのでしょうか?社会不安障害では人前に出る機会に対して強い不安や恐怖を感じるため、そのような機会を避けようとする「回避行動」が生じることがあります。例えば、発言を求められるような会議やスピーチの場面を避ける、人に声を掛けられそうになるのが怖いので1人で過ごすようになる、といった行動が例として挙げられます。また電話に対する不安や恐怖が強い人の場合は、電話をとること自体を避けようとする傾向が見られます。その他にも採用面接の場面に対しても不安や恐怖を感じ、就職活動そのものを避けようとする傾向が生じる可能性も考えられます。
また社会不安障害が就労場面に及ぼす影響については、うつ病などのその他の精神疾患を誘発するリスクとなることも挙げられます。社会不安障害に見られる「回避行動」はその場では恐怖や不安から逃れられることが可能ですが、「苦手なことを避けてしまう自分はダメな人間だ」という自分への否定による気分の落ち込みにつながるとも考えられます。また「回避行動」の継続は社会活動の制限にもなるため、自分の思うように行動ができないという新たなストレスの発生源にもなり得ると考えられます。気分の落ち込みやストレスはうつ病やアルコール依存症など、別の精神疾患につながる要因になると考えられ、これらの疾患は社会生活、特に就労場面にも大きな影響をもたらすと考えられます。
●普段の生活の中で可能な社会不安障害への対処法
前提として社会不安障害は不安障害という精神疾患の1つであり、医療機関による薬物療法が治療における重要な要素であると考えられます。しかし社会不安障害によって生じる不安や恐怖、様々な身体症状については、服薬だけでなく普段の日常生活の中でできる対処法でも緩和することができるとされています。以下に生活の中で可能な対処法についてまとめてみます。
(1)規則正しい生活を心がける
社会不安障害の症状に見られる不安や恐怖については、睡眠や食事など、規則正しい生活を心がけることが緩和につながると考えられます。社会不安障害の症状の背景には、日々の生活の乱れによって生じる自律神経の乱れが影響していると考えられます。不規則な睡眠は体内の自律神経のバランスを乱し、体や心を緊張状態にします。体や心の緊張状態は、社会不安障害の症状を悪化させる要素であるため、規則正しい睡眠は症状の悪化を予防するための重要な要素であると考えられます。症状を緩和するためにも、日々の睡眠のリズムを見直し、快適な睡眠を整えることが重要であると考えられます。まずは日々の睡眠時間の記録をつけることで、自分の睡眠の状態を知るところから始めてみるのもよいかもしれません。

(2)適度な運動や呼吸法で体のこわばりをとる
社会不安障害によってみられる身体症状には、不安や緊張による体のこわばりが見られます。体のこわばりは睡眠の妨げになることがあるため、上述の規則正しい生活を妨げる要因になると考えられます。不安や緊張によって生じた体のこわばりをほぐすためには、適度な運動が効果的と考えられています。例えば短いウォーキングや簡単なストレッチなど、日常生活の中で継続しやすいものが望ましいとされています。入浴や手や足のツボを押すといった簡単なマッサージも効果があると考えられます。また腹式呼吸を意識する呼吸法も効果的です。社会不安障害による体のこわばりは、体内の交感神経が活発になることが関連しています。呼吸法には交感神経の働きを落ち着け、体をリラックスさせる効果があるため、呼吸法を取り入れることで体のこわばりなど社会不安障害による身体症状が緩和すると考えられます。
(3)物事の捉え方の幅を広げる
社会不安障害による不安や恐怖の背景には、物事の捉え方に偏りが見られる場合があるとされています。例えば会議の場で発言をする場面で言い間違いなどの失敗をしてしまったときに、「発言しようとしたら失敗するに違いない」「少しでも失敗があるとだめだ」という考えが頭に思い浮かぶことがあります。これらの考えは自分へのネガティブなイメージを生み出し、人前に出る場面への「回避行動」につながることがあります。心理療法の一つである認知行動療法の中では物事の捉え方の偏りを「過度な一般化」や「全か無か思考」というように類型化しており、自分自身の物事の考え方のパターンを知り、物事の捉え方の幅を広げることを目的としています。社会不安障害の治療の中にも認知行動療法は取り入れられており、「回避行動」につながる自分へのネガティブなイメージの緩和に役立っています。認知行動療法については、ワンモアのこちらのコラムでも紹介していますので是非ご覧ください。(https://www.1more.jp/column/698/)

●最後に・・・ワンモアで可能な支援について
社会不安障害によって生じる不安や恐怖は、他者との交流を妨げてしまうことがあります。特に就労場面などの社会生活においては他者との交流はどうしても避けられない場面も多くあるため、社会不安障害は就労に大きな影響を与えるものと考えられます。ワンモアでの就労移行支援では、前述の規則正しい生活を整えるための様々なプログラムを活用することができます。睡眠に関する心理教育や、睡眠に必要な適度な疲労感が得られる運動プログラムに参加することも可能です。また物事の考え方の幅を広げるための認知行動療法のプログラムを活用できます。その他にもスタッフや他の利用者との間でのコミュニケーションを通して、人前で何かを行う練習を行うことも可能です。就職活動の面では、面接練習などを通して人前で話すことへの不安や緊張への対処法を一緒に見つけることもできるでしょう。以上の点から、ワンモアでの就労移行支援は社会不安障害による困りごとの対策に役立つと考えられます。ワンモアの支援についての詳細についてはこちらをご覧ください。
プログラム – 就労移行支援と企業向けメンタルヘルスサービスを提供しています – ワンモアhttps://www.1more.jp/program/
●このコラムを執筆するにあたり、下記の書籍を参照しています。
・山田和夫(2014)図解やさしくわかる社会不安障害,株式会社ナツメ社

